PHAKIC CL-高近視および/または薄い角膜の眼に最適な屈折矯正手術
はじめに
ICL(アイシーエル)は、小さなレンズを目の中に移植(インプラント)して近視や乱視を矯正し、裸眼視力を回復させる新しい視力矯正手術です。レンズを黒目(虹彩)の裏側の後房と呼ぶ位置に固定するので「有水晶体後房レンズ」、「フェイキックIOL(Phakic IOL)」(phakicは水晶体の英語名)、あるいは「有水晶体眼内レンズ」ともいいます。イメージとしては、眼内コンタクトレンズで、水晶体と虹彩の間にソフトコンタクトレンズをインプラントすると言った感じです。
ICL(アイシーエル)のレンズは、「コラマー(Collamer)」と呼ぶHEMA(水酸化エチルメタクリレート:
hydroxyethylmethacrylate)とコラーゲンを含んだ親水性の柔らかい素材でできています。コラマーは生体適合性が高く、目の中にいれても異物として認識されにくい、大変優れた素材です。特別なメンテナンスをする必要もなく、目の中で長期間にわたって透明な状態を維持し、長くレンズとしての機能を果たします。
レンズの移植(インプラント)には、インジェクターと呼ぶ挿入器を使用します。インジェクターがレンズを小さく折りたたんだ状態で眼内に射出するので、移植のための切開創は約3㎜と小さく、目にかかる負担を少なくし、日帰り手術を可能にしています。
ICL(アイシーエル)の特徴は、適応範囲が広くレーシックでは適応外となる強度近視の方や角膜が薄い方にも適応が可能なこと、視力矯正の精度が高くハードコンタクトレンズと比べても見え方に遜色がなく手術後の満足度が高いことなど。またいったん移植(インプラント)したレンズは取り出して元の状態に戻すことも可能です。これはレーシックのように角膜を削る視力矯正手術とは大きな違いといえるでしょう。
ICL(アイシーエル)自体は、20年以上の歴史があり、現在ではヨーロッパ諸国、アメリカ、韓国、中国など世界各国で薬事承認されています。
日本でも国内治験の結果からICL(アイシーエル)の有効性と安全性が認められ、高度管理医療機器「有水晶体後房レンズ」として2010年には近視矯正用レンズが、2011年には乱視矯正も行えるトーリックレンズが厚生労働省から承認を受けています。
ICLの特徴
現在においても、屈折矯正手術のゴールデンスタンダードはレーシックです。ただ、日本では心無い診療所によるずさんな手術による集団感染事件、さらに2013年12月の消費者庁の勧告などによって、「レーシックは危険な手術」という誤ったイメージがついてしまったことは否めません。(レーシックに関する当院の見解はこちらをご覧ください)
レーシックは安全で素晴らしい手術ではあるのですが、確かに弱点があります。
- (1)角膜を削ることによって近視を矯正するので、手術後に元の状態に戻すことは不可能です。
- (2)角膜を削ってしまうので、角膜が非生理的な状態になり、削る量が多くなると見え方の質が低下する可能性があります。
- (3)角膜を削ることによって、薄くなった部分に眼圧が集中し、keratectasia(医原性の角膜不正乱視)になる可能性がゼロではないです。これは術前検査機器の進歩によって、かなりの確率で回避できるようになりましたが、どうしても予測できない場合があります。
以上の3点がレーシックの弱点です。
一方のICLは、角膜を削らないので、上で述べた(1)~(3)のレーシックの弱点は全て克服しています。
特に、術後の見え方に大きな不安を持つ方にとっては、「可逆性がある」、すなわち、「一回やってみて、嫌なら元の状態に戻せる」ということは大いなる安心感につながると思います。
更に、レーシック手術が不可能だった強度近視の方や角膜の厚みが薄い方にも、手術が可能となります。
どうして今までICLは普及しなかったのか?
「そんなに良いならどうして今まで普及しなかったのか?」と言う素朴な疑問の声が聞こえてまいります。一つは、後で詳しく述べますが、コスト面です。レーシックよりも高額な手術になります。もう一つの理由は、かつてのICLは、水晶体と虹彩の間の狭いスペースにレンズをインプラントするため、目の中の水(房水)の流れが阻害され眼圧が高くなって緑内障に至る危険性がありました。それを回避するために、術前にレーザーによって「周辺部虹彩切開術」を施行する必要がありました。
この処置の手間やコストも馬鹿になりませんし、「レーザー周辺部虹彩切開術」自体に、ごくまれに水疱性角膜症という失明に繋がりかねない合併症があります。また、レーザーで虹彩に開けた小さな穴からも光が入ってくるために、人によってはそのせいで不快な見え方に感じるかたもおられます。少なくとも私は、「健康な目を手術する屈折矯正手術において、そのようなリスクを負うことは出来ない」と考え、ICLの導入を見送っておりました。
hole付きICLの登場
数年前から、北里大学眼科教授の清水公也先生のグループがICLの真中に穴(hole)のあいている「hole付きICL」の研究をされておられることが学会で報告されておられました。研究の際は色々なご苦労があったかと思いますが、完成した「hole付きICLの手術結果」は素晴らしい成績で、自分のクリニックでも施行できる日を待ち望んでおりました。そして海外でも良好な成績を収め、ついに、この日本で普通に使えるようになりました。
この新しいICLは、かつてのICLの弱点を克服しております。まず、レンズの真中の小さな穴から、房水の流れが生じるので、周辺部虹彩切除術を施行する必要が無くなり、それに伴う合併症がなくなりました。また、房水の流れが阻害されることによって、白内障になりやすい可能性も指摘されてましたが、その可能性も大幅に減じることとなりました。
手術自体も、まさに「レンズを眼内に挿入するだけ」という簡便な手術となり、普段、白内障手術で眼内レンズ挿入術をやりまくっている私のような手術医にとっては、よりストレスのない手術となります。(もちろん、決して油断しているわけではございませんのでご安心くださいませ)
ICLに適した方
日本眼科学会のガイドラインでは、
・有水晶体眼内レンズ手術に適応とされる患者さんの年齢は18歳以上で、水晶体の加齢変化を十分に考慮し,老視年齢の患者さんには慎重に施術する
・6Dを超える近視とし,15Dを超える強度近視には慎重に対応する。ここでの屈折矯正量は等価球面度数での表現を意味し,術後の屈折度は将来を含めて過矯正にならないことを目標とする。
とあります。要するに、一般的には18歳以上で、6Dを超える強度近視眼が適応となります。
6D以下の近視の方が手術を受けられないということでは勿論ないのですが、その場合は、レーシックの方が良い適応となることがほとんどです。ただ、角膜が薄くレーシックが不適応となった場合は、6D以下の近視でもICLをお勧めしますし、レーシックの不可逆性が気になり、ICLの方に安心感を感じる方はICLを選択されても良いと思います。あくまでも目の状況と患者様の意思、そして主治医である私と相談で決めて行きます。
ICLに適さない方
虹彩と水晶体の間の狭いスペースにレンズを挿入しますので、角膜と水晶体の距離(前房深度)が浅い方は、緑内障などの危険性がありますので、適しません。
また、格闘技やサッカーなど、頭部に強い衝撃を受けるスポーツをされておられる方は、衝撃でレンズがずれてしまい、再手術が必要になる可能性もありますので、エキシマレーザーを使用したPRKやLASEKを施行した方が良い場合があります。
Source: morii-ganka.jp