網膜疾患

1. 網膜とは

網膜とは
網膜は眼球壁の最も内側にある厚さ約0・2mmの透明な膜組織です(網膜)。網膜は光(視覚刺激)を感じ取り、それを視覚情報に変換するという重要な役割をもっています。視覚情報が視神経から脳へと伝えられて初めて、私たちは物が見えるのです。
 
 
網膜の毛細血管が切れて出血したり剥がれたりすると栄養がいきわたらなくなり、光に対する感度が鈍くなったり、見にくくなったり、視界が欠けるなどの障害を起こします。普段は両眼でものを見ているため、視野の異常に気付かず、かなり進行してから自覚することも少なくありません。網膜はその機能を失うと再生することはなく、早期発見・早期治療が重要な疾病の1つです。目の健康状態を定期的に把握しておくと安心です。
2. 網膜疾患の分類

2.1 網膜裂孔

網膜の役目は光を感じ取り、それを視覚情報に変換することです。視覚情報は視神経を通して脳に伝えられ、私たちは物が見えるのです。機能的には水晶体がカメラのレンズならば、網膜はフィルムに相当します。 眼球内部は、硝子体という無色透明なゼリー状の組織で満たされていて、網膜はその硝子体の表面と接しています。ゼリー状の組織は加齢とともにさらさらした液体に変化し、液体の中に空洞ができ(液化変性)、その容量も減っていきます。

 

硝子体の液化が進むと硝子体とその後方の網膜が離れてすき間ができ、これを後部硝子体剥離といいます。60歳前後に多く見られますが、後部硝子体剥離が起こる際、硝子体と網膜の癒着が強いと、あるいは網膜が弱くなっていると、収縮する硝子体に引っ張られる形で網膜が引き裂かれ、亀裂や孔ができる場合があります。これが網膜裂孔です。このメカニズムで網膜裂孔が起こるのは中高年においてですが、若い人の場合は近視の度が強い人に多く見られます。近視の度が強いと眼球の奥行きがふつうの人より長いために眼球の壁も薄くなり、網膜にも薄く変性した部位ができます。この部分が萎縮すると裂孔ができます。近視以外ではスポーツで眼球に打撲を受けると網膜裂孔を生じることがあります。

網膜裂孔の原因

1.加齢によるもの(後部硝子体剥離による)

眼の中の硝子体は、加齢とともに液状化していきます。液状化した硝子体が網膜より離れるとき、一緒に網膜に孔が開いたり剥がれてしまうことがあります。

2.打撲や外傷によるもの

ボクサーなどにも多く見られますが、殴られたり、野球やサッカーのボールがあたったり、何かにぶつかったりした衝撃で網膜に障害を引き起こすことがあります。

3.強度近視

近視には2つの要因があり、一つは屈折性で角膜や水晶体の屈折力により近視となり、もう一つは軸性のものです。網膜に関連するので、この軸性によるもので、軸性とは眼が奥に長くなります。

長くなると網膜もひっぱられ薄くなります。

4.アトピー性皮膚炎と他

アトピーの場合は、かゆみにより掻くだけではなく、叩いたりこすったりすることにより、網膜に衝撃が加わり、孔や剥れることがあります。また、糖尿病や他の病気が原因でなる場合もありますので注意してください。

網膜裂孔の症状

網膜裂孔の代表的な症状は飛蚊症です。目の前にひも状あるいは虫、糸くずのような浮遊物が生じ、それが眼球の動きについて回ります。もうひとつは、目の前に閃光が走る光視症です。これは硝子体が網膜を引っ張る際の刺激が、光として認識されるためです。 こうした症状が現れたら、網膜剥離に進行する可能性もありますので、専門医を受診しましょう。

網膜裂孔の治療

網膜(レーザー)光凝固術

裂孔または剥離部分の周辺にレーザーを照射し固めます。周辺を固めることによって、病変部位が広がらないようにします。照射する時間は病状にもよりますが、数分程度です。

2.2 網膜剥離

網膜は、光を感知して脳へ情報を伝達する神経網膜と、その外側にある網膜色素上皮という層に分けられます。何らかの原因で、神経網膜が色素上皮から剥がれてしまうことを網膜剥離といいます。網膜剥離には、網膜に裂孔(穴)ができる「裂孔原性網膜剥離」と、裂孔を伴わない「非裂孔原性網膜剥離」の2種類があります。

網膜剥離の症状
 
  • 視力低下
  • 飛蚊症
  • 画像のゆがみ
  • 視野欠損(一部または全部)

網膜剥離の原因

裂孔原性網膜剥離の主な原因は、老化、網膜の萎縮、外傷など。老化に伴う原因のひとつに、硝子体の液化変性と後部硝子体剥離がある。硝子体は薄い膜に包まれたゼリー状の組織で、加齢と共に体積が縮小して液化した部分(液化硝子体)が増え、40-50歳代頃に網膜から分離する(後部硝子体剥離)。それ自体は加齢による生理的変化であり問題はないが、硝子体が分離するときに網膜が引っ張られて裂孔を生じ、そこから液化硝子体が流出して網膜剥離が起こることがある。一方若年性の網膜剥離は、強度の近視や遺伝的な素因などで網膜に萎縮性の穴ができたり、強く打ったりして眼球が急激に変形したために起こることが多い。未熟児や遺伝性の病気に続発するケースや、眼の周囲に重症のアトピー性皮膚炎がある場合に、慢性的に強くこすったりすることで引き起こされることもある。非裂孔原性網膜剥離のうち、けん引性網膜剥離は糖尿病網膜症、未熟児網膜症などに伴い、滲出性網膜剥離はぶどう膜炎、加齢黄斑変性、中心性漿液性脈絡網膜症などによって生じる場合が多い。

網膜剥離の治療

・軽度の網膜剥離は光凝固で対応します。

・網膜がすでに剥離している場合には、網膜を戻すための手術が必要となる。手術には強膜バックリング術(強膜輪状締結術)と硝子体手術の2種類がある。強膜バックリング術は、網膜が剝離した部分に眼球の外からシリコンスポンジでできた当て物を縫い付けてへこませ、網膜のけん引を減らし、レーザーなどで冷凍凝固を行う治療。網膜を色素上皮にくっつけ、網膜剥離の位置や裂孔の大きさによっては、硝子体手術が行われる。この方法では、眼球内に精巧な手術用具を差込んで網膜を引っ張っている部分の硝子体などを切除し、眼球内に専用のガスを注入して網膜を上皮に押しつける。

2.3 糖尿病性網膜症

糖尿病の合併症の1つである“糖尿病網膜症”は中途失明原因の第1位で、毎年3000人以上の方が糖尿病網膜症により失明しているといわれています。糖尿病で血液中の糖度(血糖)が高くなって血液の粘性が増すと、血管に負担がかかり痛めやすくなります。網膜は細かい血管(毛細血管)が集中しているので高血糖の影響を受けやすく、血管が詰まったり、破れて眼底出血を起こします。

Bệnh võng mạc tiểu đường
 

糖尿病性網膜症は進行によって分類されます。

  • 単純網膜症
  • 増殖前糖尿病網膜症
  • 増殖糖尿病網膜症

糖尿病性網膜症の症状

  • 単純網膜症

網膜細小血管の血流が悪くなり、血液中の成分が血管から漏れやすくなります。点状・斑状出血、毛細血管瘤(毛細血管の一部がこぶのように腫れる) 硬性白斑(血漿成分が染み出して白く溜まる)などが現れます。

  • 増殖前糖尿病網膜症

細小血管の閉塞が広範囲に及ぶと、軟性白斑(血流不良部分の細胞が変化して白く見える)、静脈異常(静脈の走行が異常になったり、腫れたりする)、網膜浮腫(血管から染み出た血液成分が網膜内にとどまり網膜内が腫れる)などがおきてきます。

  • 増殖糖尿病網膜症

虚血状態が続いた網膜から、酸素や栄養を送るために新生血管が網膜表面や硝子体に伸びていきます。この新生血管はもろ くて破れやすいので網膜出血や硝子体出血をきたします。さらに網膜上に薄い膜状の増殖膜が形成されます。この線維性増殖組織の収縮が網膜への牽引となり、牽引性網膜剥離が発生します。

糖尿病性網膜症の治療

まずは、血糖のコントロールを行って血液や血管の状態を改善することが基本となります。伸びてくる新生血管や破れた網膜の穴には、レーザーを照射する光凝固を行います。病気が硝子体にまで進んでいたり、網膜剥離を起こしている場合は、硝子体手術を行います。

 

2.4 網膜静脈閉塞症

高齢者に多く見られ、高血圧や動脈硬化と深く関わる糖尿病網膜症とならんで、眼底出血をおこす主な原因となるのが網膜静脈閉塞症(もうまくじょうみゃくへいそくしょう)です。これは網膜の静脈の血管がつまり、血液が流れにくくなる病気です。高血圧や糖尿病になると、血管がもろくなります。そこで静脈がつまると、静脈から血液が流れ出し、網膜の表面に広がって眼底出血や網膜の腫れを起こします。網膜の静脈は、眼球の後方にある視神経乳頭で1本になり、そこを終点に集合するように、網膜全体に枝分かれして広がっています。静脈の枝が閉塞した場合を「網膜分枝静脈閉塞症」と呼び、乳頭部で静脈の根元が閉塞した場合を「網膜中心静脈閉塞症」と呼びます。

網膜静脈閉塞症の症状

静脈がつまると、そこまで流れてきた血液の行く手が阻まれ、末梢側(心臓からより遠い方)の静脈から血液があふれ出します。あふれた血液は、網膜の表面にカーテンのように広がる眼底出血となったり、網膜内に閉じ込められ網膜浮腫(網膜の腫れ)を起こしたりします。

このときの症状は、眼底出血では出血が広がっている部分の視野が欠けるなどがあり、網膜浮腫では視力の低下として自覚されます。とくに、黄斑(網膜のほぼ中央にある視力の最も鋭敏な部分)に出血や浮腫があると、視力は極端に低下します。ただし、どの血管がつまったかによって、症状のあらわれ方はさまざまで、視力がほぼ失われてしまうこともあれば、視力の低下に気づかないこともあります。

網膜静脈閉塞症になりやすい対象

  • 動脈硬化
  • 高血圧症
  • 脂質異常(高脂血症)
  • 心疾患
  • 白血病・多血症
  • 血管自体の炎症、全身性エリテマトーデス

2.5 網膜色素変性

網膜色素変性症は、網膜に異常がみられる遺伝性の病気です。原因となる遺伝子の種類が複数あるため、病態が多岐にわたることが特徴です。夜盲、視野の狭窄、視力低下が主な症状です。進行は極めて緩やかで、数年から数十年かけて徐々に進行する。網膜の機能を回復したり、病気の進行を止めたりする治療法は確立されていないため、対処療法が中心となる。日本では厚生労働省によって難病に指定されている。

網膜色素変性の症状

夜盲、視野の狭窄、視力の低下が主症状です。

  • 夜盲とは暗い所で物が見えにくくなる症状で、桿体細胞が機能を失うことで起こるため、病気の初期段階に見られることが多い。
  • 視野の狭窄は初期段階で見られることもあるが、通常はある程度病状が進行してから現れる。視野の中央しか見えなくなることが多いが、逆に中央のみが欠けたり、下側だけ残ったりすることもある。
  • 病気がさらに進行すると視力が低下し、文字が読みにくくなる、物がかすんで見えるといった症状が現れる。
  • 人によっては、まぶしさを感じる、全体的に白っぽく見える、視界で光が明滅するといった症状を訴えることもある。
  • 発症年齢は個人差が大きく、子どもの頃から症状を訴える患者もいる一方、40歳頃になってから症状を自覚する場合もある。男女の差はほとんどない。

網膜色素変性の原因

原因は光の刺激を電気信号に変換する視細胞や、視細胞に密着している網膜色素上皮細胞の中に存在する遺伝子の異常だとされている。視細胞には錐体(すいたい)細胞と桿体(かんたい)細胞という2種類がある。錐体細胞は、網膜の中心にある黄斑という部分に集中して存在し、明るいところで色を認識する。桿体細胞は、その周りに多く分布し、色は判別できないが、わずかな光でも感じることができるため、暗いところでの視力を担っている。網膜色素変性症は、まず桿体細胞が変性し、その後錐体細胞の変性へと進行することが多い。遺伝性の病気ではあるが、明らかに遺伝傾向が認められる患者は全体の約半数で、残り半数は遺伝傾向が証明されていない。遺伝傾向が認められる患者のうち、最も多いのは常染色体劣性遺伝を示すタイプで、全体の35%程度を占める。次に多いのが常染色体優性遺伝を示すタイプで、全体の10%、最も少ないのがX連鎖性遺伝(X染色体劣性遺伝)で5%程度とされる。現在までに原因となる遺伝子のうちの一部は特定されているが、その数は今後さらに増えていくと考えられています。

網膜色素変性の治療

現在のところ、網膜の機能を回復させたり、病気の進行を確実に止めたりする治療法は確立されていない。対症的な療法として、明暗の感受性を維持する作用があるビタミンA製剤や、神経細胞への血流の障害を改善する循環改善薬などを投与。まぶしさの要因となる波長の光をカットする遮光眼鏡や、文字を読みやすくするための拡大鏡、読みたいページをテレビ画面に映し出す拡大読書器といった補助器具なども使用する。遮光眼鏡は、明るいところでのまぶしさを軽減するだけでなく、明るいところから急に暗いところに入ったときに感じる暗順応障害に対して有効で、コントラストをより鮮明にする効果もある。

3. 網膜疾患の治療

眼内注射

血管内皮細胞増殖因子(vascular endothelial growthfactor:VEGF)は,正常血管の形成,維持などに必要な生理学的な作用と血管新生,血管透過性亢進,炎症などの病的な作用をきたすことが知られている.眼内ではVEGF の血管新生の作用により脈絡膜新生血管,血管透過性亢進の作用により網膜静脈閉塞症や糖尿病網膜症に伴う黄斑浮腫が生じ,これらは視機能の低下を招く.眼科領域ではこのVEGFの病的な作用を阻止する抗VEGF療法が行われるようになり,これまでの治療方針が大きく変わった疾患が後述するようにある.抗VEGF 療法は抗VEGF 薬を角膜の辺縁から後方4 mm のあたりから硝子体内に直接注射する治療で,消毒や眼局所麻酔を含めても数分で終了する.承認された眼科領域の抗VEGF 薬にはPegaptanib(マクジェン(R),Ranibizumab(ルセンティス(R)),Afribercep(t アイリーア(R))がある.これらの薬剤は創薬デザイン,分子量が異なりVEGF の阻害分子も異なる.

網膜光凝固術

網膜光凝固術は、眼底の病気に対しておこなわれる治療法です。

網膜光凝固術は、糖尿病網膜症、網膜静脈閉塞症、中心性漿液性脈絡網膜症、網膜裂孔などの眼底の病気に対しておこなわれる治療法です。レーザー装置を用い、特定の波長のレーザー光で病的な網膜を凝固させることにより病気の進行を抑えます。この治療法は病気の悪化を防ぐ目的でおこなわれるもので、元の状態に戻すものではありませんが、眼底の病気には欠かすことのできない重要な治療法です。

硝子体手術について

眼球のなかには硝子体という透明なゼリー状の組織があります。この組織が炎症や出血などにより混濁したり、網膜を牽引して網膜剥離となったり、様々な疾患を引き起こす原因となります。この硝子体を切除するために白目の部分に小さな穴を3ヵ所開け、そこから細い器具を眼内に挿入し、眼の中の出血や濁りを硝子体と共に取り除いたり、網膜にできた増殖膜や網膜裂孔を治し網膜の機能を回復させる手術を硝子体手術といいます。現在では手術機械の発達や手術技術の進歩により手術可能となる疾患も増え比較的安全に手術ができるようになりました。

網膜疾患はさまざまな形で発症し、軽度から重症度まであります。まったく自覚症状なく進行するものもあります。一度発生しては深刻な後遺症を残す病気もあります。そのため、網膜疾患の予防、早期発見・早期治療が最も重要です。